ホラー小説って2種類あるじゃないですか。
読んでる最中に
「うわっ!!!」
って心臓を雑にぶん殴ってくるタイプと、
読み終わったあとに
「……なんかもう、ずっと気分悪いな……」
が胃の裏とか背骨のすき間とか、そういう嫌なところにベッッッッッタリへばりついて、風呂入っても寝ても全然どっか行かないタイプ。
内藤了の 『鬼の蔵 よろず建物因縁帳』 は、後者でしたね。※読んだの随分前なんですけどね。
嫌。
とにかく嫌。
でもホラー好きって、たぶんその「嫌」を食いに行ってるところあるじゃないですか。
私はあります。
もう設定の時点で終わってるんですよ。
山深い寒村。旧家。蔵。
因習。一族。不審死。
血で書かれた「鬼」の文字。
嫌な要素の幕の内弁当。ホラー界の嫌なやつドラフト会議、全員指名。
「ちょっと盛りすぎじゃない?」って今は思ってる。
でもこの本、盛ってるのにちゃんと全部美味しい。
一個一個がジワジワ腐ってて、読んでるこっちの気分を丁寧に害してくる。
えらい。
主人公の 高沢春菜 は広告代理店勤務で、移築工事の下見のために蒼具家という旧家を訪れるんですけど、その時点でもう空気が終わってる。
なんかもう「こんにちは」って入っていい家の空気じゃない。
「今すぐ帰れ」の空気。
でも帰れない。ホラーだから。
で、その蔵で見つけるのが、人の血で「鬼」と書かれた土戸。
嫌すぎるだろ。
情報量の全部が嫌。
「鬼」って文字、こんなに嫌な文字だったっけ?
普段そんなことないだろ。節分の豆まきで「鬼は外」とか言ってる時はもうちょいポップだろ。
字って怖いんだなと改めて思いました。いや血文字が怖いだけかもしれない。
しかも蒼具家には、「盆に隠れ鬼をしてはいけない」 という言い伝えまである。
嫌。
ホラーに出てくる「○○してはいけない」、全部ToDoリストですけど、これが特に嫌なのは、内容そのものというより
そんなルールが代々残ってる家の歴史ごと嫌
なんですよ。
守る守らないの話じゃない。
そんな禁忌が当たり前みたいに息してる場所そのものがもう無理。
住みたくなさすぎる。
で、調べていくうちに、その一族で不審死が続いてることが分かってくる。
ああやっぱり、で済ませられない。
「やっぱり何かありました」じゃなくて、
「やっぱり最悪の方向に当たってるじゃねぇか」
のほう。
そこで登場するのが、因縁物件専門の曳き屋 仙龍(守屋大地)。
このシリーズの面白さ、ここなんですよ。
普通のホラーなら、怪異があります、呪われてます、祓います、終わり。
でも『よろず建物因縁帳』はそうじゃない。
建物が主役。
人が怖い。土地が怖い。一族が怖い。風習が怖い。
そこまでは分かる。ホラーだから。
でもこのシリーズはさらに、建物そのものが過去を吸ってる。
そこに住んだ人間の感情。
執念。恨み。後悔。
そういうベタベタしたものが、壁とか柱とか土とか木とかに全部しみ込んでる感じがする。
古い家を見て「趣がある」じゃなくて、「この壁、何人分の感情吸ってんだよ」と思わせてくる。
ホラーの方向性として大好きです。内藤先生ありがと(ミカヅチも大好きだお)。
しかもこの本、驚かせ方が安くないんですわ。
「はいここでドン!」みたいな雑な絶叫マシーンじゃなくて、
「その風習、残してる時点で終わってんだろ」
「その蔵、壊せ。いや壊して済む話か?」
これが本当にうまい。
ホラーって、幽霊が出たら怖いとか、血が出たら怖いとか、もちろんそういうのもあるんですけど、それ以上に嫌なのが
昔からそこにある理不尽
なんですよ。
誰が始めたのか分からない。
なんで続いてるのかも分からない。
でもずっと残ってる。
みんな薄々おかしいと思ってるのに、誰も止められない。
そういう閉じた空気。
『鬼の蔵』は、その「説明のつかなさ」の嫌さがかなり強い。
怪異が怖いんじゃない。
怪異が生まれるまでの人間の歴史が怖い。
で、ここ大事なんですけど、この本、雰囲気だけで押し切ってないんですよ。
こういう和風ホラーって、雰囲気100点、湿度120点、でも途中で
「で、結局何が起きてるんだっけ?」
ってなることがたまにあるじゃないですか。
でも『鬼の蔵』はちゃんと見せてくれます。
この蔵に何があるのか。
蒼具家で何が積み重なってきたのか。
どうしてそこまで因縁が離れないのか。
そのへんを追わせる力があるから、嫌なのに読む手が止まらない。
嫌なのに読む。
読みたくないのに読む。
湿った嫌さを浴びながらページをめくる。
なんだこれ。
ホラーとして優秀すぎるだろ。
しかも最後に見えてくるのが、単なる「祟り」だけじゃないのがまた良い。
そこにはちゃんと、長く積もった人間の執念とか悲しさとか、どうにもならなかった時間 がある。
だから読後感が「ギャー怖かった!」で終わらない。
妙な悲しさまで混ざってくる。
こういうの好きな人にはたまらないと思う。
たぶんこの本が刺さるのは、こういう人です。
•因習村が好き
•旧家が好き
•閉じた一族が好き
•土地に残る因縁が好き
•建物に染みついた過去が好き
逆に、テンポよく怪異が出てきて、ワーッと怖がらせて、スカッと終わるホラーが好きな人には、ちょっと湿度が高いかもしれない。
でも、この湿度がいいんだよ。
カラッとしてるホラーなんか、なんか違うだろ。
怖い話はジメジメしてて、空気悪くて、読んだあと少しだけ気分落ちて、ようやく本番だろ。
『鬼の蔵 よろず建物因縁帳』
血文字とか祟りとか、分かりやすい怖さもちゃんとあるけど、
土地。
昔からそこに残り続けている、誰にも片づけられなかった感情。
それが全部つながって、逃げ場のない嫌さが押し寄せてくる。
怖いというより、嫌。
でも、その嫌さが気持ちいい。
読み終わってスッキリするかと言われたら、全然しません。
しませんが、それでよろしい。
むしろ、あの話を読んだあとに「いや~スッキリ!」とか言ってたら、そっちのほうが普通に怖い。
コメントを残す